偽りの関係


人生初のお見合い、それも男相手のお見合いから二週間。

休日の朝一からそれは始まった。

目覚ましにと、アラームをセットして枕元に置いておいた携帯が予定時刻より早く鳴る。

ん〜、電話…いったい誰?

ベッドから手だけを出して携帯を取る。ろくに相手を確認せずに通話ボタンを押した。

「…もしもし」

『なんじゃ晴海、その声は。まだ寝ておるのか』

「っ、じぃちゃん!?」

予想しなかった相手だけに、思わず布団から起きて背筋を正し、正座してしまう。

「…何か?」

『おぉそうじゃった。晴海、あれからどうじゃ?』

「………何が?」

いきなり主語も無く切り出され、俺は意味が分からず思いっきり素で返していた。

『何がじゃない。三上さんとは上手くやっとるか?もし駄目ならまた…』

俺はそこでじぃちゃんが何を言ってるのか分かった。

「いやいやいや、だ、大丈夫!じぃちゃんが心配するような事は何もないから!上手くやってるって!三上さん、大人ですっごい優しいし。だから、その…」

自分でも何言ってんのか分からなくなってきた。

『…そうか?じゃが、休みに家にいるとはどういうことじゃ。デートはどうした?もう一回ぐらいしたじゃろ?』

これはどう答えればじぃちゃんは納得するんだ?

『晴海?』

「も、…もちろん、したよ!でも三上さんも忙しい身だし」

いぶかしむじぃちゃんに俺は嘘を吐いてしまった。

ヤバイ…。とにかく三上さんに連絡しなきゃ!

通話を切り、二週間前に登録したばかりでまだ一度もかけたことのない番号へ電話をかける。

呼び出し音が一回、二回、三回と鳴り相手は九コール目でやっと出た。

『………はい』

その声が柔らかいものじゃなく、低音でもの凄く不機嫌そうな声だったので俺は一瞬固まった。

『……誰だ?』

「…っ、み、三上さんですか?俺、徳永 晴海ですけど!」

いきなり電話したらまずかったかと思わずどもる。

『……あ〜。ごめん。晴海君?俺、朝弱くて怖がらせたかな?』

「いっ、いいえ!そうですよね、よく考えたらまだ朝早いこんな時間にすみません」

じぃちゃんの電話で叩き起こされて、動揺したとはいえまだ朝七時半だ。

休日の今日、俺だって起こされなければ八時や九時まで寝ていたはずで。

『それで何かあったの?』

「はい。それがじぃちゃんから電話があって…」

怒らないで話を聞いてくれる三上さんに俺は安心してホッと息を吐いた。

良かった、ちょっとびっくりしたけどやっぱ三上さんは三上さんだ。

「実は…」

俺は嘘を吐いてしまったこと等先程の会話全てを三上さんに話した。

『そう。晴海君、今日の予定は?』

「え?特に決めてませんけど…」

『じゃぁデートしようか。そうすれば嘘吐いた事にはならないだろう?』

「いいんですか?ありがとうございます!」

優しい〜、さすが大人。俺も三上さんみたいな大人になりたいなぁ。

待ち合わせ場所と時間を決め、俺はお礼を言って通話を切った。







約束の場で待っていれば、三上さんは初めて会った時のように柔らかい笑顔を浮かべてやって来た。

「おはようございます。今日は無理言ってごめんなさい。なんか迷惑ばっかかけてて俺…」

三上さんに頼ってばっかで申し訳無いと俯けば頭に手が置かれ、くしゃりと撫でられる。

「そう気に病まなくていい。それに、今日は初デートなんだから楽しもう。な?」

「…はい」

まったく気にしていないと、むしろ楽しもうと前向きに言ってくれる三上さんはやっぱり優しい。

それに初めて見る三上さんの私服姿。通り過ぎて行く女性が視線を向けるほど格好良い。

「じゃぁ行こう。向こうに俺の車があるから」

あれ?三上さんって自分のこと俺って言うんだ。あ、そっか、公私で分けてるのかな。

自然な動作で手をとられ、俺は三上さんの隣を歩き出す。

はぁ、やっぱこれだけ格好良くて紳士ならモテるんだろうなぁ。エスコートしなれてるし…。

「あの、俺女の子じゃないんで手離してもらっても…」

「恥ずかしい?」

「ちょっと…」

「そっか。俺は気にしないけど晴海君が嫌なら止めよう」

あっさり離された手に、何だか俺の方が申し訳なくなる。

「何か、ごめんなさい」

「晴海君が謝ることは何もないよ」

本当にすぐ近くの駐車場に止めてあった車に、俺は三上さんを見上げて聞く。

「何処へ行くか決まってるんですか?」

「そうだな、…晴海君は何処か行きたい場所ある?」

車の鍵をリモコンでピット開けた三上さんは俺に助手席に座るよう進め、逆に聞き返してきた。



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